お茶は人と人が交流をする場です。お稽古ではそんなに感じないかもしれませんが、お茶室の中にいる人がお互いに、一緒にいる時間を「良かった」と思えるといいですよね。それがいまこの時間を楽しむ、一期一会の気持ちです。
そんなお茶を楽しめるように、お客さんの挨拶について書きたいと思います。
前回と引き続き、薄茶をいただく場合の話です。
- 「お先に」は省略形の挨拶
- 挨拶するときは顔を向けて目を見よう
「お先に」は省略形の挨拶
お茶ではいろんな場面で「お先に」という挨拶が使われます。薄茶をいただく時の「お先に」は、前後のやり取りが省略されている言葉です。
お客さんが薄茶をいただく場合のやり取り、下記の会話が想定されています。
正客・・・一番始めの客
次客・・・次の客
一番始めの薄茶で挨拶するとき
正客)お先にいかがでございますか
次客)どうぞお先にお召し上がりください
正客)ではお先にいただきます
正客が飲んで、2番目の薄茶で挨拶するとき
次客)もう一服いかがでございますか
正客)十分いただきましたのでどうぞお召し上がりください
次客)ではご相伴させていただきます
この会話を省略して、「お先に」と「ご相伴させていただきます」だけ使っています。なので、一番始めにお茶を飲む客(正客)と次の客はすべての会話を言い切ります。
そして、その後につづくお客さんは省略した形の「お先に」と「ご相伴させていただきます」だけを使います。
これをみると、前回書いた、なぜ自分が飲む予定のお茶碗を隣の客との間に置くのかがわかりますね。本来は、次のお客さんに「いかがですか?」とオファーしているので、隣に寄せているのでしょう。それを辞退されたから、自分の正面に置き直して飲み始めます。
先生によって省略する言葉が違う?
私は25年の間に2人先生がかわっています。
二人の間で教える言葉が違っていました
最初の先生は
「もう一服いかがでございますか」
二人目の先生は
「ご相伴させていだきます」
これ、時代によって言葉がかわるんだな。ととらえていましたが、実は同じやり取りの中の省略するためにどの部分を取り出したかの違いだったんです。
現在は、「ご相伴させていただきます」が多くつかわれているように思います。本来のやり取りの最後の部分を取り出して「ご相伴させていただきます」を使うようになったのでしょう。もともとも、「お先にいただきます」もやり取りの最後のみになっていいるので、それに合わせたということですね。
挨拶するときは顔を向けて目を見よう
お茶では手をついて挨拶をするときが多々あります。前回書いた「お先に」では隣の人に何度か挨拶をします。
この隣の人に挨拶をするときの形について今日は書きたいと思います。
- 体と手は正面を向いたまま
- 顔の向きは隣の人の顔を見て
初めての方に、「隣の人に「お先に」の挨拶をしてください」と説明をすると、体は正面のまま、両手を隣の人の方に向けて挨拶をしてしまう場合があります。これは、隣の人に向けて挨拶をしている。という気持ちが現れています。
しかしながらお茶では隣の人に挨拶をする場合でも、体は正面のまま、手を自分の膝の前正面で畳についてお辞儀をします。
それはなぜか、
手を隣に向けてお辞儀をした場合、手は向けることができますが、体は正面にしか倒すことができません。体も隣に向けて倒すには、体の向きを斜めにする必要があります。
この状況で、手を隣に向けてしまうと、体をひねってお辞儀をすることになります。
人に挨拶をする時、体をひねったままだとちょっと中途半端ですよね。挨拶をするなら相手の正面に向き直したいしますよね。しかし、客の席とは同じ方向を見て座っているので、挨拶のためだけに90度回って「お先に」をするわけにも行きません。これをしていたら、時間がかかるし、ごそごそもぞもぞ落ち着きません。
なので、座っている位置は変えず、手も正面について、正面に体を倒します。
隣の人への挨拶なので、顔だけは隣の人に向けて目を見て「お先に」と言います。
お稽古で慣れきて、隣の人も仲間だったりすると、正面にお辞儀をして、ちょっと首をよこにして、隣の人の顔も見ずに「お先に」と言ってしまうことがあります。私もそうでした。将来どこかのお茶会に呼ばれたときにその習慣が出てしまわないように、ちゃんと隣の人の顔をみて「お先に」と挨拶しようと行動を変えました。
お茶は人と人が交流をする場です。お茶室の中にいる人がお互いに、一緒にいる時間を大切にできるといいですよね。それが一期一会の気持ちです。
まとめ
この薄茶をいただくときの挨拶のように、お稽古を積んでいくと形式的になってしまう仕草があります。ときおり、この動作はなんのため、誰に向けてしているのかというのを振り返ると、お互いの時間を大切にできるようになりますね。