「お茶室で抹茶をいただく」と聞いて、思い浮かべる空間はこういう感じでしょうか。
- 居心地の良さ
- 落ち着いた
- 静寂
- 非日常
その空間の演出に、大きく影響しているのは、
「道具の扱い方」
です。
利休百首歌の中、これら3つは、道具の扱い方について詠んでいます。これらを私流に解読します。
「何にても道具扱ふたびごとに 取る手は軽く置く手重かれ」と「手前には重きを軽く軽きをは 重く扱う味いをしれ」
これらの歌は、道具を手に取る時と、置く時に関するものです。
「道具を持って、〇秒経ったら手を離す。」という技術的なことではなく、物を持つ時と置く時の「気持ち」を説明しています。軽いと重いは重量で使う言葉ですが、それを置き方の気持ちとしたときに、どういう風になるでしょうか。
実際に一番軽いものと一番重いもので考えます。実際の重さは形やそれぞれなので、重さのイメージとして素材を書きます。
軽い道具 茶杓(抹茶をすくう20cmほどの竹)
重い道具 茶釜(鉄でできた直径40cmほどの釜。それに8割ほどお湯が入っている)
この道具、茶杓も茶釜もお点前の中で持ち上げたり置いたりします。
まず、重量の軽い道具代表、茶杓です。取る時は、実物が軽いので、「ヒョイ」と取れます。使った後、置く時も重さは変わらないので「ヒョイ」と置けます。ですが、置く時は「ヒョイ」と置くのではなく、置いた位置から動かないように、そっと置きます。茶杓は軽いので、ちょっとしたことで位置がずれて、まっすぐ置いたつもりが、斜めになったり、転がったりします。「置く手重かれ」になると、そっと置くことができます。
次に、重量の重い道具代表、茶釜です。お点前の中で、炭を交換するために茶釜を持ち上げます。取る時は、お湯も入っているので、本当に重いです。思わず「ヨイショ」、「エイ」とか言ってしまいそうです。言ってしまいそうですが、掛け声は心の中にして、持ち上げます。重いので、勢いをつけたくなりますが、そうすると、炭や炉の淵に当たることもあります。実際は重いけれども、「サッ」っと持ち上げます。「あー、重そうだな」とか「大変そうだな」とお客さんに思われないように、軽々と持ち上げます。茶釜を置く時は、実際に重いので、注意深く置けます。重いものがうまく置けると、気が楽になって、「ホッ」とした瞬間に気持ちが軽くなってしまいますが、最後まで、そっと、重いものを持っている気持ちで、置きます。
それを実行すると、どうなるか?
軽いものは、重さが出て、重いものは、軽さが出る。なので、目で見る重さが平均になり、取ったり置いたりする動作が安定する。なので、お客さんは落ち着いてみていられる。ということでしょうか。
「何にても置き付けかえる手離れは 恋しき人にわかるると知れ」
もう一方の歌「恋しき人と別れる時のように、手を離せよ」です。
これは、物を置いて手が離れる時に、「よし完了!」みたいな感じで、パッと離すのではないよ。ということです。
道具を置いて、すぐ手を離さずに、ゆっくりと別れるようにしたほうが、気持ちが落ち着いて見えます。また、道具を丁寧に扱っているように見えます。それは、「置いてから〇秒たってから離す」というものではなく、実際は目視できるほどゆっくりではないかもしれませんが、「ゆっくり別れる」ことを考えていると、自然な速度の動作になると思います。
「好きな人と別れる時のように、名残り惜しむかのように。」と言うと、よくわからないですよね。
私は、こう考えました。
娘が低学年のころ、朝玄関を出てから、通学路途中まで付いていき、そのあと、一人で登校する姿を「いってらっしゃい」と言った後も、しばらく見ている。
それが、この歌の気持ちみたいなものかなーと思いました。
子供、両親、兄弟、友人、恋人など自分の好きな人、誰かに向けて言う「いってらっしゃい」の気持ちをちょっと思い出すと丁度いいかもしれません。
以前、私の先生から教えていただいたことで、似た表現がありました。
「道具を置いた後は、視線を次の動作にすぐ移すのではなく、置いた道具に少しの間視線を残す。そうするとお客さんから見て、お点前が落ち着いて見える。」と、
それもまた、「好きな人と別れる時のように、後ろ姿を少し見ている時間。」というのと同じように、ぴったり合ってますよね。
この二つの歌から、お茶道具の取るとき、置くときの気持ちの持ち方がわかりました。この道具の扱い方も「落ち着いた居心地のいい空間」を演出するのには、大きな役割を果たしていると思います。
日常でも活かせるかな?
日常にこれを活かすとなると。。
軽いものを重そうにもっていたら、名残惜しく置いていたら、時間がいくらあっても足りません(笑)。
日常では、
- 物を取るとき、大体A4より大きいサイズは両手で取る。
- 物を置くときは、音がしないように。
くらいを心がけています(笑)。すべてゆったりと出来ればいいですが、難しいです。
演出された落ち着いた居心地のいい空間、だから、茶室は非日常の体験なんでしょうね。
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