抹茶茶碗に「銘」をつけてみました

先日、桐箱修繕で書いた、母の喜寿のお祝いに送った黒い紀州焼の抹茶茶碗。これにに銘をつけようと思いました。 銘をつける過程で色々調べたことなどをちょっと書こうと思います。

Contents

> 茶道具の銘とは?
> 銘はどのように付けられる?
> 実際につけたのは銘は「鯨魚(いさな)」です

茶道具の銘とは?

銘とは茶道具につける名前のことです。

名前の「名」はこの字ですが、茶道など道具の名前のことは「銘」とこの字を書きます。
銘がつけられる茶道具は様々で、

  • 茶入(抹茶を入れる小さな瓶のようなもの)
  • 茶碗
  • 茶杓(抹茶をすくう匙のようなもの)
  • 茶壺(お茶を保管する壷)等
  • 花入等

それ以外にも、抹茶、お菓子、お香にも銘があります。

これを眺めていると、銘がつけられる道具(物)とは、

お抹茶に触れるものorお茶をいただく時にお客様の近くで触れるものの様です。(お茶が入っていなくても、お点前の最後で道具を拝見する時にお客が手にとって見られるもの。)


なぜ道具に銘が付けられるかと言うと、茶会の時の道具の取り合わせ選びの一つとなるからです。茶会には、茶会の「目的」があります。それに伴いその意図を表現すために、「趣向」こらします。
例えば
「目的」:先生の傘寿を祝う茶会
「趣向」:お祝い。これからも長寿でいてほしい願い。干支や年齢の数字。傘寿の色、山吹色。先生が好きな和歌。などなど。
といった形で、目的を趣向で彩り表現する感じです。「どの道具を使おうか?」と茶会を企画するホストの大変なところでもあり、やりがいを感じるところです。また、茶会に招かれたゲストの「どのような趣向だろうか」と楽しみにしているところです。
その目的を趣向で表現する、一つの要素が、さまざまな道具の「銘」です。茶会では数多く道具をつかうので、どの道具と組み合わせると面白い表現ができるか、見た目、柄、大きさだけでなく、銘も加味して道具を決めています。

近くでよく観察できる道具(物)に銘を付けているのは、その銘から会話に発展にすることができるからですね。

銘はどのように付けられるの?

茶道具の銘は色々とバリエーション豊かにありますが、その名前は誰がつけているんでしょうか? またその付け方について書こうと思います。
付け方には何種類かあり、古い時代にはこのように付けていられたようです。

  • その道具の印象
  • 持っていた人の名前
  • 道具が作られた背景や逸話を元にする

などです。


歴史のある古い道具に銘がついていたら、それを外して、新しく銘をつけることはありません。追銘といって新しくつける場合もありますが、以前の銘はそのまま残します。銘自体がその道具の持つストーリーを語っているので、気軽にとったりつけたりはできません。


では現在、作られた茶道具の名前はどのようにつけるのでしょうか。いろいろ銘をみていると、以下の場合が多く感じます。

  • そのものの印象、作られた場所
  • 物の姿や、(やきものの場合)釉薬の景色
  • 物が作られたストーリー
  • 和歌の一部から言葉を取る

和歌から付けられる場合について。元ネタとなる和歌は、よく古今和歌集から引用されます。
一つの和歌の単語が銘とし使われている茶碗を使って、同じ和歌の中の他の単語と関連する銘をもつ別の道具(掛軸、茶杓、またはお菓子やお花)を用いて、目的に合った趣向にしていきます。
なので、和歌が題材になっていたら、和歌をよく知っている人は、


「茶碗と掛軸がこうだったら、あの和歌かな?」


と予想して、ホストと話すタイミングで
「今日は、あの和歌の趣向ですか?」


と話を持っていくと、ホストも
「ああ、気が付いてくれてうれしい。」


と思ってくれるはずです。

気が付いた人と気が付かなかった人では、会話の内容も異なりますし、気が付いたほうがより深く参加した茶会について知れるので、楽しみが増えますよね。


なので、私は古今和歌集をちゃんと勉強しようと思っている次第でゴザイマス。。高校のときにちゃんと古典を学んでおけばよかったと後悔しています。「現代の生活に必要ないよね!」と学生の時は思っていましたが、こんなところで出くわしてしまうのは、予想外の展開でした(汗

実際につけたのは銘は「鯨魚(いさな)」です

最後に、紀州焼那智黒釉の抹茶茶碗につけた銘は「鯨魚(いさな)」です
鯨魚とは、クジラの異名です。
この銘にしようとおもったのは、

  • 那智釉薬(碁石の黒で使われる真っ黒な石を釉薬にしたもの)なので、黒い茶碗である
  • 母の生まれたところは、昔からクジラ漁が有名

「鯨魚」について検索してみました。ネガティブなことがないかチェックをします。そうしたら、万葉集に鯨魚がある様子。

万葉集は、日本に現存する最古の和歌集です。

ここでは、「鯨魚(いさな)取り」という言葉が「海」にかかる枕詞として使われています。

その一つが、作者不詳ですが、

昨日こそ、船出はせしか、鯨魚取り、比治奇の灘を、今日見つるかも

万葉集 


ほんとうは感じばかりですが、読みやすく表記しています。

読みは、


きのふこそ、ふなではせしか、いさなとり、ひぢきのなだを、けふみつるかも


海にかかるのならば、海に関連する道具などで趣向を考えるときに、広がりがあるかな。
大切に使っていこうと思います。







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Ria
フリーランスでデザインの仕事をしつつ、週末はお茶のお稽古や、お茶を楽しむ会を実家のお茶室でひっそり開いています。グラフィックデザインと茶道を往来する中で、茶道の知識がデザインに役立ったりしています。
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